教授対談

教えることとデザインすること

深澤 直人 / 柴田 文江

2014年に設立された統合デザイン学科は、来年10年目を迎えます。設立メンバーである学科長の深澤直人先生と、今年の春から統合デザイン学科に参加している柴田文江先生の2人に、デザインを教えること、デザインを学んでいくこと、そして統合デザインという言葉に込められたデザインの理想の姿について話してもらいました。

– 自己紹介と最近のお仕事のお話を聞かせてください

 

柴田:プロダクトデザイナーの柴田文江と申します。今年の4月から統合デザイン学科で、一緒に皆さんと授業をやってます。

 

深澤:プロダクトデザイナーの深澤直人です。統合デザイン学科の学科長をしています。多摩美のプロダクト学科を卒業してから、しばらく武蔵美で先生をしていて戻ってきて、この学科を作って今年で9年目になります。

 

柴田:最近、色々やられてますよね。

 

深澤:仕事は日本より海外の方が多くて、先週までミラノサローネっていうのにいたんですけど、大体ヨーロッパだと家具とか照明器具、他にはアメリカや中国とかが多いです。ちょっと新しいのだと船とか。

 

柴田:船ですか。すごいですね、おおきいのですか。

 

深澤:大きいのですね。建築もやってます。自分のスタジオもデザインしました。ちょっと話題になってます。

柴田:私はどっちかっていうと日本の仕事の方が多くて、基本的には生活の道具を作ってますが最近はですね、スーツケースをデザインしました。深澤先生も無印のスーツケースを作ってますけど、私はもうちょっとベンチャーみたいな感じで作ったりしてます。あとは2010年ぐらいから「9h (ナインアワーズ) 」というカプセルホテルをずっとやってて、いろいろ海外にも出そうって話になってます。

深澤:2人のキャリアは似てるんですよね。最初は日本のメーカーでデザイナーとして勤めてから独立してるし、同じ山梨県出身で生い立ちも似てる。

 

柴田:山梨県って別にデザインの予備校があるわけでもないし、そんなにデザイナーが多いわけでもないんですけど、本当に偶然というか。郷里に帰るともてはやされます。

 

深澤:ふふふ

– デザインをすることと学生にデザインを教えることは違いますか?

 

柴田:難しいな。違うところっていうと、本当は自分もできてないようなことでも学生に言いながら、いや実は自分もそれをやらなきゃいけないと思うことはよくあります。特に美大の先生は教師である以前にデザイナーだから、自分が理想とするデザインについて、自分もまだ届いてないところまで学生に話していることはありますね。

 

深澤:デザインでも、歴史とかどういう考えのもとで出来上がってるかとかいうことを伝えようとすると、自分にとってもすごく勉強になっていて、学生に教えることによって自分のデザインにフィードバックされるみたいなことがあるから、一緒に勉強してるって感じはあります。学生から偶然でも良いのが出てくると、それで自分が「あ!」っていう気づきがあったりするので、教えることとデザインするってことは、すごく近いところにあるような気はしますよ。デザインを教えるってことは、スポーツみたいなもので、たとえば野球で言うと全然ボールが打てないという時に、振っていたら偶然に球が当たってしまったみたいな時あるじゃないですか。それはまだ打てる力はないんだけど、偶然当たった瞬間に今打てたでしょってタイミングを言うのが先生の役目として重要。そうすると自分で打った気になるわけ。で、もう1回やるとまた空振りしちゃうけど、しばらくするとまた当たる。すると (先生が) 当たったでしょって言う。それを繰り返していくとだんだん空振りの回数が短くなってきて、当たってくる。だから先生ってその場に居て、良いものが出た時に「いいじゃん!」って一緒に感動して盛り上げていく役目だと思いますけどね。

– お二人にとってデザインをする楽しさはどんなところでしょう?

 

柴田:私はずっと楽しい。子供の時はデザイナーって言葉は知らなかったけど、ものを作るのが好きだったりしたから、こんなのが仕事になったらいいなと思っていたので、大げさにいうとその時のまんまやっていますし、やっぱりものができたりすることは楽しいし、綺麗なものが作れるって喜びがありますね。

 

深澤:デザインって自分たちがしてることに改めて気づいた上で、それを表現するということをやっているので、自分を知る、発見するってことの面白さやワクワク感と似てんじゃないかなと思う。

 

柴田:デザインをしてない自分はもうちょっと想像ができないので、デザインと自分を切り離して考えられないんだけど、やっぱりデザインで楽しいことが起きたらそれ以上楽しいことはなかなかないですね。

 

深澤:生活の中で活かされるものをデザインしようとするってことは、周りにちょっと嬉しいことが起きてる中のひとつを自分たちが担当してるってことだから、自分たち自身が生活を楽しみながら生きていくってことが大事なんじゃないかな。楽しみと言えば一緒にゴルフをして遊ぶことがあるんだけど、やりながら、人間の身体性ってのはどこまで延長してるのかとか、どのくらいの範囲までを感じ取ってるのかとか、生態心理学者の佐々木正人先生(統合デザイン学科客員教授)だったらどう考えるんだろうなんて話してるんです。佐々木先生は統合デザイン学科が目指しているいわゆる環境と人間の関係について研究しているんですが、それはデザインについて考えるということと同じで、たとえば椅子のデザインを考える時には椅子だけのことを考えるのではなく、座る前の椅子に人が寄っていく時から既に椅子と人の関係が発生しているんだから、そこからデザインを考えようって話を勉強してる学科は珍しいと思う。

 

柴田:私は今年からですけど、そういう新しいコンセプトというのはずっと羨ましいっていうか、ちょっといいなと思って見てました。実際入るといろんなインテグレートがされてるんで面白くて、 学校行くのがすごい楽しみです。

– 統合デザインの学生にどんなデザイナーになってほしいと思っていらっしゃいますか。

 

柴田:今の時代、美術大学でデザインを勉強したからってみんながデザイナーにならなくてもいいような気がしてて、デザインを学んだ卒業生がいろんなコミュニティに入っていくことで新しいものが生まれる、大げさに言うと色んなことが平和になっていく気がするんですよね。だからデザイナーっていうよりは、デザインを勉強したことで考え方を色んな人に伝えていけるような人になってもらったらいいなと。

 

深澤:デザインは大学卒業したら成長しないっていうわけじゃない、逆に社会に出てからもかなり努力を続けながらやっていくっていうものだから、関係を続けながら付き添ってくっていうことが僕らの役目だなと思う。大学時代に芽が出なかったのに、急に「うおー」って伸びていく子がいっぱいいる。

 

柴田:伸びるタイミングってありますよね。

 

深澤:あるある。わかるタイミングっていうのが。自分の教えたことが社会に出て少し経ってから「あ、この子そのタイミングでわかったんだ」みたいな。やっと気づいてくれたみたいなことがある。

– 最後に統合デザイン学科に入学をしたい人たちに一言お願いします。

 

柴田:ここは新しいことが生まれるっていうか、今私たちが思ってるデザイン業とか、デザイナー像ではない、みなさんが大人になった未来のデザインや考え方が作られる場所だと思うので、そういうのを勉強するには統合デザイン学科はすごいいいなって思います。

 

深澤:なるべくデザインってものを型にはめないように、何をデザインしてもいいよっていう風なスタンスだから、 ちょっと入った時は迷うかもしれないけど、デザイナーって常に未知の問題に遭遇していく仕事だし、生活と関わっているから、すごく綺麗な椅子をデザインして、すごく綺麗なお皿をデザインして、 すごく綺麗なノートをデザインして、さらにそこに書き込まれる文字もデザインしてみたいにどこも途切れるところがない。全部がインテグレートされている中で、自分が思い浮かんだアイデアを実現させるってことができるのが、統合デザイン学科。逆に最初から私は何々デザイナーですって言わせないところが重要なポイントで、過去にあったカテゴリーを言うんじゃなくて「そんなこと今すぐ決めなくてもいいじゃない。もうちょっとこっちでも応用できるかもしれないよ」みたいに言ってます。自由になんでもデザインできるようなデザイナーになってほしい。

深澤直人(Naoto Fukasawa)

人の想いを可視化する静かで力のあるデザインで国際的な企業のデザインを多数手がける。日常生活用品や電子精密機器から家具、インテリア、モビリティ、建築に至るまで手がけるデザインの領域は多岐に渡る。英国王室芸術協会の称号を授与されるなど受賞歴多数。

 

柴田文江(Fumie Shibata)

武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、大手家電メーカーを経て「Design Studio S」を設立。

日用品、家具、医療機器などのプロダクトデザイン、ホテルのトータルディレクションなど、国内外のメーカーとのプロジェクトを進行中。